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「循環型農業」実現のために。ある社員の知られざる奮闘物語

今回の読む西利では、前回に引き続き、営業部の社員2人が他部署を訪問。やってきたのは、「京つけもの西利 あじわいの郷工場」です。
西利では、約20年前から製造過程で出た不要物を自然発酵の力で堆肥化し、畑へと還元する循環型農業に取り組んできました。今でこそ多くの企業が取り組む循環型農業ですが、当時は前例が少なかった時代。リサイクル施設導入の立役者となったのは、入社3年目だった1人の社員でした。
西利の循環型農業実現プロジェクト。その裏側にあった苦労や想いとは?
人にも環境にも「やさしい」農業を追求した、ある社員の奮闘に迫ります。

【この記事の主な内容】
・20年間、廃棄物ゼロ。西利のリサイクル施設
・施設導入の立役者に聞く。一大プロジェクトの裏話

20年間、廃棄物ゼロ。西利のリサイクル施設

京都府京丹後市にある西利の直営農場「西利ファーム」から車で約10分、営業部の森垣と四方が訪れたのは「京つけもの西利 あじわいの郷工場」。今回、施設導入の立役者である森田と、施設の管理に携わる荻野が話を聞かせてくれました。


森田 敏宏
1998年入社。入社後はあじわいの郷工場での製造およびリサイクル施設の導入・管理に携わる。工場長を務めたのち、現在は製造課長および購買仕入担当として、原料の仕入や発注を行う。

荻野 高宏
2016年入社。入社後はあじわいの郷工場での製造業務を経て、現在はリサイクル施設担当として工場の設備管理に携わる。

今日はよろしくお願いします。まずは循環型農業の仕組みについて教えてください。

簡単にいえば、漬物の製造過程で出る野菜の皮や切りくずを堆肥に変えて、原料となる野菜の畑の土づくりに再利用しているんよ。



循環型農業の実践やリサイクル施設が導入されるまでには、どのような経緯があったんですか?

今から約20年前の話やけど、1994年に国連大学※1が世界で初めて「ゼロエミッション」という考え方を提唱したんよ。ゼロエミッションとは、産業活動から発生する排出物を限りなくゼロにすることで、持続可能な社会を目指す理念のことやね。
※1 国連大学とは、東京都渋谷区に本部を置く、国際連合(国連)の自治機関のこと。

ゼロエミッション…現在も気候変動など世界各地でさまざまな環境問題がありますが、当時にはそのような考え方があったんですね。

大量生産・大量消費社会の時代やったからね。当時の平井達雄専務(現在の副会長)はいち早くゼロエミッションの可能性に気付いて、環境に配慮した工場づくりを始めた。リサイクル施設はその一環として作られたわけやね。今考えると、先進的な取り組みやったと思うね。

今でこそ環境に配慮したモノづくりやリサイクル活動は一般的なものになっていますが、当時はまだまだ意識され始めたばかりだったんですね。西利は、それまではどのように野菜くずなどの廃棄物を処理していたんですか?

施設が導入されるまでは、近くの牧場に引き取ってもらって飼料として活用していたんやけど限界があった。製造規模の拡大にあわせて仕組みを変える必要があったわけや。それも施設を導入する経緯の一つやったと聞いているよ。


野菜くずから作られた堆肥。


千枚漬が販売される繁忙期は、どれほどの量の野菜くずが処理されているのですか?

冬場は、1日で15 t くらい処理することもあるね。夏場など、少ない時で1〜2 t かな。それでも施設を導入してから20年間、工場から排出される野菜くずの量はほぼゼロを保ち続けているよ。

一日で15tも…!それを全て処理しているとは驚きです。どのような仕組みで野菜くずは堆肥に変わるのですか?

うちの最大の特徴は「自然発酵方式」で堆肥に変えていること。野菜に元々住み着いていた微生物を利用して発酵を促しているんや。この発酵による堆肥化も当時は画期的な仕組みやった。他企業からも見学させてほしいという依頼があったくらいやねんで。



野菜は90%以上が水分やから、発酵の過程で水分が抜け、最終的に出来上がる堆肥はもとの10%以下の重さになる。何より自然に発酵してくれるさかいに、ランニングコストが安いのも特徴かな。

発酵という方法がここでも利用されているんですね。野菜から作られた堆肥は、作物にどんな影響を与えるのですか?

堆肥っていうのはね、野菜を大きく育てる肥料とは違うんよ。わかりやすく言うと、豊かな土壌づくりのためのもの。堆肥肥料を入れると土壌にミミズ、イモムシなどが増えてふわふわになるねん。甘い野菜が育ったり、草むしりが楽になったりしたという報告もあるよ。


堆肥はJA京都を通じて西利ファーム・契約農家へ。


西利では、20年前から契約農家や地元の方との協力や連携を通じて、「安全・高品質」の漬物づくりが確立してきた。ありがたいことに、堆肥は契約農家の方にも使ってもらっているよ。お客さんは当然のことながら、生産者の方や環境にもやさしい企業でありたいね。


施設導入の立役者に聞く。一大プロジェクトの裏話

それにしてもこれだけ大規模な施設ですから、導入した当時はご苦労があったのではないかと思うのですが……。

めっちゃ大変やったわ(笑)当時は自社でリサイクル施設を管理している所なんて無かったからね。前例が少ないという点での苦労があったね…。産廃処理に必要な資格を取得するところから始めたんやけど、当時、僕はまだ入社3年目やった。

入社3年でそんな一大プロジェクトに…(笑)

最初、軽い気持ちで資格取得の勉強を始めたんやけど、試験がめちゃくちゃ難しいことにそこで初めて気付いてん(笑)これは相当に勉強せなあかんと顔が青ざめたね。それでも自分がなんとかせなあかんという思いで勉強して一回で受かったよ。

相当な努力をされたんですね。

その頃はとにかく必死やってん。野菜くずを処理する仕組みをつくって、運用していくことができなければ、製造がストップしてしまうという状況やったからなぁ……。

それはプレッシャーですね。施設の運用が軌道に乗った時には、達成感も大きかったのではないですか?

それがねぇ、じつは寂しい気持ちの方が大きかったんよ。僕は元々漬物の製造を担当していて、漬物を作ることが好きやったから……。このまま、ずっと野菜くずの処理をやっていくんかなと思ってね。



自分の子どもになかなか仕事を理解してもらえへんかった。小学校でお父さんのお仕事について作文を書きましょうという宿題が出た時に「お父ちゃんは漬物屋さんなのに、なんで漬物を作ってないん?」って言われてなぁ…。

それは切ない話ですね…。仕事を続けるモチベーションはどこにあったんですか?

転機は一回この仕事を離れたときやね。一回立ち止まって、外から眺めた時にこの仕事の大切さが理解できたかもしれへん。野菜くずを全て自社で処理して、堆肥に変えているっていうのはすごいことなんやと、周りに言ってもらえて。初めて、自分の取り組んできたことの意義を実感できたね。

当時は子どもを見学に連れてきたりもしたねぇ…。機械をピッカピカにして、お父ちゃんの仕事は工場にとって大切なことなんや!言うてね。子どもたちが僕の仕事に興味を持ってくれて「お父ちゃん頑張っとるな!」って言われたときは嬉しかったわぁ。

それはグッとくるエピソード…。今でも当時を思い出したりすることはありますか?

もちろん。この施設は自分がやってきたんやという自負に近い気持ちもあるから、荻野くんのような若手の人がしっかり管理してくれていることが嬉しいよ。

任せてくださっているなということを感じますね。導入当時と基本の仕組みは変わりませんが、少しずつ改良を重ねて今後も時代にあわせた進化をしていきたいと考えています。


現在は社員3人が設備の管理をおこなっています。


私自身、西利で働いて3年間、毎日の仕事内容は理解しているつもりでしたが、まだまだ知らないことはたくさんあるなと感じましたね。自分自身がお客様に伝えられることの幅も広がり、勉強になりました。

営業部として店頭に立つ上で、お客さんに商品を手にとっていただく工夫は常にしているのですが、それでも売れ残りを出してしまうことはあって……。言葉では「もったいない」としか表現できないのですが、これまで以上に重みをもってその言葉が響くようになりました。少しでもお客様に商品の魅力が伝わるよう、今後も試行錯誤を続けていきたいと思います。

森田さんのお話を聞いて、僕自身も身が引き締まる思いでした。この仕事はミスや事故などがなく進めることが一番大切です。そのため基本的には淡々と業務にあたることが多いのですが、今日はこの仕事への誇りや森田さんの熱い想いをあらためて感じられました。

こちらこそ、ありがとう。若手の皆さんには、今日の経験をこれからの仕事に活かしてもらえたら嬉しいね!



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若手社員がゆく!西利品質の舞台裏   野菜づくり編

 

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