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インタビュー

“微生物のプロ”に聞いてみた。「腸活」の最前線、徹底解説!

最近、目にする機会が多い「腸活」や「腸内細菌」といった言葉。「第二の脳」とまで言われる腸を健やかに保つことは、今や健康を語るうえで欠かせません。そこで今回、弊社研究室の平井室長が、発酵や微生物の専門家である京都大学の小川順教授にインタビュー。 「なぜ腸が大切なの?」「『善玉菌』って、どんな菌?」といった基礎知識から、「食品の機能をパワーアップさせる腸内細菌の力」といった最前線の研究まで。「腸活」ライフに役立つ情報を、わかりやすくお伝えします!

 

【この記事の主な内容】
・そもそも「腸活」の意義って?
・健康を考えるうえで欠かせないのは、「細菌のバランス」
・「腸活」最前線!腸内細菌を育てて活かす食生活
・注目される植物由来乳酸菌のパワー

 

小川順
京都大学農学研究科/応用生命科学専攻応用微生物学講座/教授。農学博士。同大学において「発酵生理及び醸造学分野」に所属し、これからの「健康、エネルギー、環境」に資する研究をテーマに、新たな微生物機能の探索・開発とその産業利用に取り組む。近年の論文に『腸内細菌における食品成分代謝研究と健康増進への応用』、『食を豊かにする発酵・醸造-微生物による食材・食品の化学変換』など。

平井啓理
京都府立大学 農学部農芸化学科卒業。京都府立大学大学院 農学研究科生物機能学専攻細胞高分子学講座 博士前期課程修了。2013年「京つけもの西利」取締役研究室長に就任し、現在に至る。主に「ラブレ乳酸菌、GABA」の研究の他、商品開発、品質管理全般に携わる。

 

そもそも、「腸活」の意義って?

本日はよろしくお願いします!
さて「腸活」の話に入る前に、「腸とはどのような器官なのか」というお話からしていきたいと思います。たとえば、「腸は第二の脳」なんて言われたりもしますよね。

 

腸(腸管神経系)の神経細胞の数は、脊髄に匹敵するといわれています。だから、そのような言い方がされるんですね。

 

なぜそんなにたくさんの神経細胞が?

 

それは腸に、さまざまな外界の情報が入ってくるからです。腸は口を通じて外界につながる、いわば「内なる外」なんですよ。

 

腸の表面積って、広げるとテニスコート1枚分くらいっていわれますよね。

 

それだけ腸には情報収集力があるんですよ。そして腸は脳と常にコミュニケーションをとっている。腸の中でなにか異変が起きると、すぐにその情報が脳へ伝達されます。

 

なるほど。だから腸の状態が、体調に影響を与えるんですね。

 

 

小川先生が考える「健康な腸」とは、どんな状態なんでしょうか?

 

その前に、ちょっと「人間」の話をしましょう。
これまで人間は生物として、一個体であると認識されていました。しかし最近、「そうではないのでは?」といわれ始めたんです。

 

最新の研究では、人間の身体を構成している細胞の数は約37兆といわれています。それに対して、我々の皮膚や腸内などには、100兆ほどの細菌が住んでいるとわかってきたのです。

 

くっついている細菌の方が圧倒的に多いんですね!倍以上の数があると。

 

そう。そして人間と細菌の細胞全体が、人間の健康を左右している。

 

細菌も含めた全体を「1人の人間」だととらえて、健康を考える必要があるんですね。

 

とくに腸には多くの細菌がいます。調子がいまいちなとき、腸内細菌の状態にアプローチすることで、全体のバランスを正常化できる可能性がある。これが「腸活」の意義のひとつといえるでしょう。

 

健康を考えるうえで欠かせないのは、「細菌のバランス」

腸内細菌の構成は一人ひとり異なります。お母さんのお腹にいるときは無菌状態なんですが、生まれるときに菌をもらう。その後、食事や衛生環境などから影響を受け、離乳が終わる頃に腸内細菌のメンバー構成がほぼ定着します。このメンバー構成は、大人になっても大きくは変わりません。

なるほど!そんな時期から……。腸内細菌というと、よく「善玉菌」「悪玉菌」といった言い方がされますよね。

「善玉」「悪玉」といいますが、じつは腸内に存在する大半は「日和見菌(ひよりみきん)」なんです。普段は悪い影響もいい影響も与えない「日和見菌」ですが、腸内細菌のバランスが崩れると、悪さをする「悪玉菌」になったりもするんです。

 

日和見菌」は「場の雰囲気を読んで身の振り方を変える菌」なんですね。では、腸内細菌のバランスを崩さない秘訣は何でしょうか?

健康状態にある場の雰囲気を乱さないよう、腸内細菌のエサとなる食物繊維などを、日頃から充分に摂取し、腸内細菌の状態を安定化しておくことが重要です。食物繊維のように、摂取することにより安定した腸内細菌状態が育まれる食材を「プレバイオティクス」と呼びます。

 

また発酵食品などを食べて「善玉菌」を腸内に直接届けることも大切。こういった「善玉菌」を含む素材は「プロバイオティクス」といわれます。

 

ただし、これらの食材を食べれば食べるほど善玉菌が増えるわけではありません。よく「ヨーグルトを食べたら、菌が腸に棲み着くんですか?」って聞かれるんですが、実際は外から摂取した菌は腸内に定着しにくいんです。

 

摂取しても出ていってしまうなら、発酵食品を食べてもあまり意味がないということになってしまいそうですが……。

いえ、口から入った菌は、外に出るまで、約半日は体内にとどまって機能を発揮して働いてくれます! だから、善玉菌が含まれる発酵食品を食べることは腸にとって、身体にとって、とても重要なんです。

 

だからこそ、毎日少量でも食べ続けることに意味があるんですね。

 

その通りですね!

 

「腸活」最前線!腸内細菌を育てて活かす食生活

ここからは、腸内細菌の機能について、最前線のお話をうかがいたいと思います。

 

はい。腸内細菌は、存在そのものが役に立つだけではなく、その活動によって、摂取した食品の機能が高まったり新しい機能が引き出されたりすることも最近の研究でわかってきました。

 

わたしたちが食べている食品の栄養素は、そのままのかたちで役に立っているだけではありません。腸内細菌や腸内細菌がつくる酵素によってモデルチェンジ(代謝)されることにより、その機能がさらにパワーアップして働いている可能性もあるんです。

 

なるほど…同じものを食べたとしても、腸内細菌によって身体への影響が変わるんですね。そうした成分は、どのように役立つのでしょう?

 

免疫を整えたり炎症を抑えたり、肥満や癌を抑制するものもあります。この観点から注目されているのが、焼き魚と納豆に味噌汁、といった伝統的な日本の朝ごはんです。

 

イワシなどの脂には、抗炎症効果をもつ「EPA」などの成分が含まれており、体に良いとされていますよね。

 

それらも、成分そのままで吸収される以上に、腸内細菌による代謝をうけた後に吸収された方がよく機能する場合があるんですただ、なかにはその代謝能力がある腸内細菌を持たない人もいます。

 

そこで、その腸内細菌がつくる代謝物と同じ機能を持つものを、あらかじめ発酵微生物で作ってしまうことが有効になります。EPAの場合はある種の納豆菌がその能力を持っていそうで、焼き魚と納豆を一緒に食べると、EPAの機能をうまく活用できるようになる可能性があるんです。

 

一緒に食べることに意味があるのですね!日本の伝統的な食品や食べ方は、本当によくできているんですねぇ…。

 

しかし、そもそも食生活によって腸内細菌のバランスを整えることには、どのような意味があるのでしょうか? 効率の点では、サプリメントのほうが良さそうですが……。

 

じつはそうでもないのです。というのも、腸内細菌それぞれに役割があり、どの役割を持つ菌が身体に不足しているかは、ピンポイントで知ることはできません。いっぽうで、何が必要かがはっきりとわかっており、効果に切れ味を期待するなら、サプリメントは有効です。

 

多くの場合、なにがマッチするかはいろいろ試してみないとわからない。だからこそ食生活が重要なんですね。

 

食品には様々な成分が含まれますし、特に発酵食品には多彩な微生物がいます。食品によって幅広い成分や微生物を取り入れることが、ブレに強い身体を作るためには大切なんです。

 

注目される植物由来乳酸菌のパワー

最後に漬物を取り扱う企業として「乳酸菌」についてお聞かせください。
糠漬などの植物性の食品からとれる乳酸菌と、ヨーグルトなどの動物性の食品からとれる乳酸菌がありますよね。どちらを摂るほうがいいのでしょう?

 

どちらか一方が良い・悪いというのではなく、どちらも進化的には同じ乳酸菌です。しかし最近の研究で面白い事実がわかってきました。植物性の食品からとれる乳酸菌は遺伝子の数が多く、動物性の食品からとれる乳酸菌より多くの菌株(※1)によっては約2倍もの遺伝子を持っている、ということです
(※1)ある単一の菌類や微生物を分離培養したもの。

 

倍以上も…それにはどんな理由があるんですか?

 

ヨーグルトなどに比べて、漬物などには菌がエサにしやすい成分が少ないんです。そのため、普通ならエサにしなくてもいいものまでエサとして活用する力をもつ必要がある。厳しい環境で生きていくために、菌がさまざまな遺伝子を残した状態になる、ということです。

 

植物性の食品にいる乳酸菌は、菌にとって過酷な環境で生き延びるために、多くの遺伝子、つまりは多彩な機能を保持しているんですね。

 

遺伝子は、どんな機能を発揮するかについての設計図ですから、「遺伝子が多い」とはつまり、菌そのものの手数が多いことを意味します。つまり植物由来の乳酸菌には、身体の異変などに対して、高い対応力を期待できるんですね。

 

ただし、どんな食品であっても、食べて急に病気が治ったり、いきなり元気が湧いてきたりはしません。最近「△△を食べれば健康に!」といった売り文句がよくみられますが、結局、日々の積み重ねに勝る「健康への近道」はないんです(笑)「腸活」は病気を治すためではなく、日々の調子を整え、いざという衝撃に備える「防災グッズ」のようなものむしろ、この「備える」ということが、たいへん重要なんですよ。

 

「腸活」は毎日の積み重ね、ということですね。最前線のお話、とても面白かったです! 本日はどうもありがとうございました。

 

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